多様なメンバーが心地よく、
自分のリズムで過ごすための音
東急株式会社、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)が共同で手がけた「SHIBUYA QWS」は、2019年、渋谷スクランブルスクエアの15階に誕生した共創施設です。“QWS”は「Question With Sensibility(問いの感性)」の頭文字から名付けられ、「問うこと」を起点に多様な個性と価値観が交わることによって新しい価値創出を目指しています。
開業当初、QWSでは音楽配信サービスを利用したBGMを使用。それに対し多くの変更リクエストが寄せられ、対応が必要になったものの、運営チームとして“全てのユーザーにとって快適なBGM”を決定するのは困難な状況が続いていました。こうした背景の元、「変更のリクエストが出ることなく、QWSの体験を高める音をつくりたい」という依頼が、施設内のカフェ・サロンを運営する株式会社トランジットジェネラルオフィス経由でSOUND COUTUREに寄せられました。

“音楽”ではなく、
“空間のインテリア”としてのサウンドを
音楽には個人の好みが存在するため、BGMの選定には常に好き嫌いが伴います。
SOUND COUTUREはこの課題に対し、“音楽”ではなく“音の設え”としてのアプローチを提案しました。美しい家具のように空間に自然に溶け込み、あらゆる人に心地よく受け入れられるサウンドを設計する。
QWSメンバーへのヒアリングを通じて、「誰にとっても心地よく、集中力や士気が高まる音」を最大公約数として定義し、空間の体験の一部として機能するサウンドを構築していきました。



すべての個性が響きあう──3つのデザインコンセプト
SOUND COUTUREはまず、サウンドデザインの指針となる簡単なステートメントを策定しました。
さまざまな問いが渋谷の空の下で交差し、
すべての個性が美しく響きあう。
そしてわたしたちは一つの場を共有している。
このステートメントに基づき、サウンドデザインを行うために、以下の3つのデザインコンセプトを設計しています。
1つ目は「まる、さんかく、しかく(Circle・Triangle・Square)」。音波形の基本である正弦波、三角波、矩形波をモチーフに、多様な個性が調和しながら共鳴し、新たな価値が生まれる様子を音で表現しました。
2つ目は「知性が交差する音」。採用した音楽ジャンルはIDM(Intelligent Dance Music)。テクノやブレイクビーツ、ニューエイジなど、複数の音楽的文脈が混在する実験的で知的なサウンドが、QWSの掲げる「問い」と「探求」の空気を支えます。
3つ目は「共振(Resonance)とダンスミュージック」。QWSユーザー同士が振動を通じてつながることを意識し、116BPM(シンコペーションにより78BPMにも聴こえる)を基調としたビートで構成。思考の切り替えや集中、リラックスを自然に促す音として設計しました。



一日の流れと共に変化するサウンド設計
QWSユーザーの行動を観察した上で1日を5つの時間帯に分け、それぞれの動きに合ったサウンドをデザイン。朝は「QWSに来た」というマインドセットを誘発し、夜はリラックス効果が報告されている4,000Hzの高周波音を取り入れるなど、時間に応じた音の構成で、QWSで過ごす1日の体験を自然な移り変わりを支える構成としています。
5つのデザインしたサウンドを、実際の空間に落とし込む際には各エリアの用途や音響特性に応じて音量や音質を丁寧に調整。現場で実際に音を聴きながら行った調整は、QWSメンバーへのヒアリングに基づき、空間ごとの最適解を探りながら行われました。






空間の体験価値を高める音へ
実装後、以前寄せられていたBGMに関するリクエストは消え、サウンドに対するポジティブな意見が増加。QWSに関わる企業からは、自社のオフィスでのサウンドデザインに関する相談が寄せられるようになりました。サウンドデザインが単なるBGMとは大きく異なり、「空間の体験価値」を高める重要な要素として機能していることが証明されました。